2012年3月20日火曜日

SELDA『SELDA』



Mos Def

Mos Defが好きなんです、昔から。


俳優やったり、TVコマーシャルに出演したり、色々と批判を受けることもあるけどやっぱりかっこいいんですよね。
(映画『僕らのミライへ逆回転』でもいい演技してました。)




2ndアルバム『New Danger』では自身のバンドを率いて「ロックンロールを黒人の手に取り戻す」というコンセプトで生演奏の曲が数曲収められていますが、そのバンド名がずばり「Black Jack Johnson」…いちいちかっこいい。
(Black Jack Johnsonのメンバーは、Bad BrainsのDr. Know(!)、ParliamentのBernie Worrell、Living ColorのWill CalhounとDoug Wimbish)




そんなMos Defの2009年に発売された4thアルバム『THE ECSTATIC』。ジャッケットが異常に地味なせいかあんまり話題にならなかった印象なのですが、僕としては一番好きなアルバムです。


実はプロデューサー陣がかなり豪華でMadlibOh NoJ DillaなどのStones Throw勢や、The Neptunesの片割れChad Hugo等々。
しかもかなりアクの強い各トラックを流石はMos Def、見事に歌いこなしています。これは超名盤です。

(↓生演奏だと大分雰囲気は変わりますが収録曲「Quiet Dog Bite Hard」のテレビ番組でのライブです。Mos Def先生、読売ジャイアンツのキャップかぶって自らパーカッション叩いてます。)




このアルバムの1曲目に収録されているのがOh Noのプロデュースで制作された「Supermagic」というトラックです。
エレキ・ギターのサンプリングが終始暴れまわり、その上をMos Defがスリリングに滑るようにフロウしていくのですが、しっかりとソウルフルさも残っていて最高に熱くなります。
そして、この曲でOh Noによって大胆にサンプリングされているのが今回紹介するトルコのシンガーSELDA BAGCANの1stアルバム『SELDA』に収録されている「Ince Ince」です。
Ince Ince - Selda




Oh No
因みに、Oh NoはMadlibの弟としても知られ、今やStones Throwレーベルの中でもそのMadlibや故J Dillaと肩を並べるビートメイカーと言っても過言ではないと思います。


Stones Throwからこの「Supermagic」のインスト曲「Heavy」や、同じくSELDAの「Yaylalar」を使った「Exp Out The Ox」、Mustafa Ozkentの「Uskdar'a Giderken」を使った「My Luck」など、トルコ、ギリシア、レバノン、イタリア等のレアなジャズ、ファンク、サイケ、ロック、フォークなどを使用したビート集『DR.NO'S OXPERIMENT』を発表しています。

(他にもOh Noがエチオピアの音源のみで作ったビート集『DR.NO'S ETHIOPIUM』もおすすめです。)






で、やっと本題のSELDAです。


トルコでは1967~1980年まで「アナドル・ロック」というサイケデリックな音楽ムーヴメントが興ります。


しかし、70年代末に起こった軍事クーデター、その後の軍事政権下による反体制的な音楽の弾圧によってそれらのアーティスト達は自由な表現が出来なくなってしまいました。


80年代末になりやっと自由な表現が可能になり、90年代を通して次第にトルコのEdip Akbayramであったり、Erkin Korayなどのアーティストが再評価を受け各国に知られていくようになります。


トルコ最大の都市イスタンブールの南東、アナトリア半島出身のSELDA BAGCAN(セルダ・バージャン)もそんな近年になってから再評価を受けたアーティストの中の一人です。


彼女のデビューは1971年、しばらくはシングルのみのリリースを続けていたようですが1975年に1stアルバム『SELDA』を発表します。


こちらはその1stアルバム『SELDA』に5曲のボーナス・トラックを加えてこのブログでは度々登場する、おなじみイギリスのリイシュー・レーベルFINDERS KEEPERSより2006年に再発されたものになります。


トラック・リストは
SELDA『SELDA』
1. Meydan Sizindir
2. Yaz Gazeteci Yaz
3. Mehmet Emmi
4. Nasirli Eller
5. Ince Ince
6. Gine Haber Gelmis
7. Yaylalar
8. Dam Ustune Cul Serer
9. Dost Uyan
10. Gitme
11. Niye Cattin Kaslarini
12. Kizil Dere
CD Only Bonus Tracks
13. Utan Utan
14. Karaoglan
15. Eco'ya Donder Beni
16. Anayasso
17. Nem Kaldi


オリジナル盤のLPは中古市場にて6ケタで販売さえれていたという話なので本当にFINDERS KEEPERS様様です。


MOGOLLAR
後半の2曲はトルコの伝説的(らしい)プログレ・バンド「MOGOLLAR」や、欧米ロックとトラッドを融合させた先駆者として知られるトルコ随一のロック・ミュージシャンCem Karacaとの共演で知られる(らしい)バンド「KARDASLA」との共作を収録しています。
(僕はそこまでよく知らないのですが…)








「トルコのプロテスト・フォーク・シンガー」という肩書きで売り出してますし、ジャケットでも颯爽とアコースティックギターを抱えているわけで、わりとアシッド・フォーク的なイメージを持ってしまいがちですがこのアルバム、先程の「Ince Ince」でもお分かりの通りとても激しいバンド・サウンドが主体の音源になってます。


中近東特有のエキゾチックな音階をトルコの伝統的な楽器サズやウードだけでなく強烈なファズ・ギターを使って演奏し、ファンキーなドラムとスペイシーなシンセがそれに絡む…という感じでとてつもなくかっこいいです。
Selda Bagcan-Yaylalar


彼女はよく「トルコのJoan Baez」 と例えられていますが、実際に彼女の歌詞の中には社会的なメッセージが込められた反体制的なものが多く(トルコではこういった反体制的なプロテスト・ソングのことをを「オズキュン」と呼ぶそうです)、そんな主張やパフォーマンスのせいで実刑判決や旅行制限を受けたこともあったそうです。


なかには変拍子を使っている曲もあるのですが、もともとトルコで作られた民謡などの伝統的な音楽には変拍子の曲も多い様です。
彼女に限らずトルコのアーティストたちの多くは、西洋的な「ロック」というフォーマットの中に非西洋である自国の音楽文化を巧みに取り込んでいくことでこういったハイブリッドな音楽を作り上げています。




SELDA BAGCANは現在でもオズギュンの歌手として現役バリバリで活動していて、今だにトルコの老若男女から高い支持を受けているようです。
僕も2004年(?)発表の『Deniz'lerin Dalgasıyım』というアルバムを持っていますが70年代のようなアグレッシヴなものではなく大御所の貫禄みたいなものを感じました。


ただやはり彼女が一番尖っていた時代というのはこの70年代中期の前衛的なサウンドの音源であることは間違いないようです。


彼女の初期作品の貴重なジャケットがこちらのサイトにたくさん掲載されています。






因みに、この1stアルバムの曲はダンス・ミュージック界での人気がとても高い様で、
先程のOh No『DR.NO'S OXPERIMENT』に収録の「Yaylalar」を使った「Exp Out The Ox」や、
マッシュ・アップのパイオニア的な存在である2 MANY DJ'Sが「Yaz Gazeteci Yaz」と、あのHOUSE OF PAINの代表的パーティー・チューン「Jump Around」をマッシュ・アップしてライブでかけたりしているみたいです。






▼Selda Bağcan - Official Website

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