2012年3月13日火曜日

THE BROOKLYN SOUNDS 『LIBRE - FREE』

実は僕、数年前までサルサってキューバとかプエルトリコとかの南米音楽だとばっかり思ってたんですね…。サルサ聴き始めてすぐに違うと知ってびっくりしました。


「マンボラマTokyo」というラテン音楽の愛好集団に所属する藤田正さんと岡本郁生さんが監修で、サルサ、ブーガルー、メレンゲ、ラテン・ロックなどを取り扱った『米国ラテン音楽ディスク・ガイド50's-80's /LATIN DANCE MANIA』というガイド本があります。
そのなかで岡本郁生さんは
「よく、”サルサの父なる島はキューバ・母なる島はプエルトリコ”といわれるが、もう1つ付け加えるなら”生まれ育った場所がニューヨーク”だ。サルサは決してキューバ音楽そのものではない。」
と語っています。
そう、サルサってニューヨークの音楽なんですね。




スペイン領だったキューバとプエルトリコが実質的にはアメリカへと併合され、アメリカ領の様な状態になったのはだいたい20世紀初頭です。
その頃からニューヨークには職を求めて移民が盛んに流入してくるようになり、その数は第二次世界大戦後に激増していきます。アメリカ本国は戦後の好景気に沸いていましたが、アメリカの実質的な植民地であったそれらの国はお世辞にも豊かな状態とは言えなかったようです。


ウエスト・サイド物語
そのために多くの若者達は夢を求めて、アメリカへと渡って行きました。そして、その玄関口でもあるニューヨークのイースト・ハーレムには、そんな移民たちが住みつくようになっていきます。


この地域は「エル・バリオ」と呼ばれ、母国語がスペイン語である彼らはアメリカ国内ではそれまでのアフロ・アメリカンよりも低い地位で生きていくことを余儀なくされていました。


例えばこの地域に住むプエルトリカン・ギャングとイタリア系アメリカ人のギャング同士の人種間の抗争を描いたのがミュージカル『ウエスト・サイド物語』だったりします。



 フィデル・カストロとチェ・ゲバラ
そんな中、1959年に音楽大国であったキューバでキューバ革命が起こります。
当時ニューヨークを中心にマンボなどキューバ発のラテン音楽が一大ブームを起こしていましたが、キューバとアメリカの国交が断絶したことにより亡命以外の方法でキューバのミュージシャンがニューヨークで働くことは不可能になってしまったのです。
ニューヨークのラテン・ピープルは自分たちの新しい音楽を作っていくことに迫られます。
60年代中頃にはブーガルーというR&Bとラテン音楽を混合したような音楽が生まれていきますがこれはたった数年間のブームで終わってしまいます。(そのためアーティストによってはブーガルーを「一過性の流行」「時代のあだ花」などと軽視する傾向もあるそうです。)



そして70年代にそれまでのキューバの音楽を元に、プエルトリコの音楽やアメリカのソウルやR&B、ロックやジャズを貪欲に取り込んで再生産し誕生した音楽、それがサルサなのです。
(もちろんその設立には多くのブーガルーのアーティストが関わっています。)



サルサがここまで大きくなった要因にはやはりJerry MasucciとJohnny Pachecoによって設立され、Willie ColonCelia Cruzなどが所属していた「ファニア・レコード」の存在なくしては語れないと思いますが、「ファニア・レコード」の話はまたの機会にゆっくり紹介したいです。


Willie Colon
僕はサルサを聴き始めたきっかけがWillie Colonだったこともあってトロンボーンが中心になる「トロンバンガ」というスタイルのアーティストに特に惹かれます。


そしてそんな中で出会ったのが今回紹介するTHE BROOKLYN SOUNDSでした。




トラック・リストは
THE BROOKLYN SOUNDS 『LIBRE - FREE』
1. Libre Soy 
2. Chango Santero 
3. Lagrimas Negras Con Loiza Aldea 
4. Esta Vida 
5. Guaguanco Tropical 
6. Ha Llegado El Momento 
7. Las Margaritas 
8. Calma Tu Llant


まずジャケットのありえないデザイン(笑)。


僕はあまり詳しくないのですが、ニューヨーク・サルサの良音源カタログが眠るMARY LOUというレーベルに70年代初頭に残されたヴィンテージ音源を復刻レーベルとして知られるSALSA INTERNATIONALが数年前にCD化したもののようです。


サルサ・レコードのコレクターの方でもなかなかオリジナルは見たことがないってぐらい謎の9人組で、この前に『THE BROOKLYN SOUNDS』というタイトルの1stアルバムがあるので、こちらの『LIBRE - FREE』が2ndアルバムみたいです。


一応メンバーは
Julio Millan ‐ Leader - 1st Trombone
Ray Rivera - 2nd Trombone
Tony Ortega - Piano
JulioFonseca - Timbales
Kelvin Fonseca - Bongos
Alfredo Burgos - Bass
Leo Rosado - Vocals
Eddie Rodriguez - Conga
Jimmy Cabot - Claves - Maracas


となっています。リーダーのJulio Millanがトロンボーン奏者ですし2本のトロンボーンが楽曲の中心を担うのでトロンバンガのスタイルになりますが他の情報はほぼありません。


ただ一曲目の「Libre Soy 」を聴いたときに衝撃が走りました。
イントロの不穏な空気からなだれ込むようにスタートしてとにかく吹きまくるトロンボーン、怒涛の勢いで叩きまくるパーカッション、ピアノも暴れるようにこれでもかと叩きつけられます。
こんなにうるさくて歪んだサルサってあるのかと…


2曲目「Chango Santero」の勢いも凄いことになってます。


で、まあ演奏のテクニックが非常に高度なラテン・ミュージシャンの中にあって、お気付きかとは思いますがこのグループは決して演奏は上手くないんですね。
コロ(コーラス)もがなり声みたいになって終始ハードコア・スタイル、各パートのソロもお世辞にも上手とは言えません。
ですが、この全くトロピカル度を感じさせないのに胸を締め付けられるようなメロディー、勢いを重視した転げ回るような演奏スタイルに、ついつい再生ボタンを何度も押してしまう魅力があるんです。


先程の『米国ラテン音楽ディスク・ガイド50's-80's 』のレビューにも書かれている様にこのグループをパンク・ロック的と位置づける方も多いのですが、70年代初頭にアメリカの地で低い地位で生きていくことを余儀なくされてしまったラテン・ピープルのまさに「異議申し立て」がここにはつまっているように思います。




(こちらの方はブログでセックスピストルズの「勝手にしやがれ」を連想したと書かれていました。)
▼「Never Mind the Bollocks Here's The Brooklyn Sounds」似顔絵ロック ~ Portrait in Rock




彼らは今で言ったら「グライム」みたいなスタイルなんじゃないかと勝手に妄想しています。
ちょっと無理がありますが(笑)。

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