2012年4月14日土曜日

『BLACK STARS Ghanas Hiplife Generation』


ガーナって聞くと「チョコレート」ぐらいのイメージしかないですよね。

音楽的観点からいくと「ハイライフ」でしょうか。

ハイライフはアルジェリアの「ライ」や、コンゴの「ルンバ・コンゴレーズ(日本だとリンガラ音楽)」などに並んでアフリカの中でも有名な音楽ジャンルなんじゃないかと思います。

Fela Kuti
ガーナで発祥したジャンルではありますがリベリアやナイジェリア、シエラレオネなんかでも広く演奏されています。

ナイジェリア出身のFela Kutiも初期の60年代頃はハイライフを演奏していたので、後に彼が作り出した「アフロビート」にも多大な影響を与えています。







元々ハイライフは西アフリカのリベリアで作られた、アフリカでもっとも古いポピュラー音楽「パームワイン・ミュージック」を原型として成立した音楽ジャンルです。

Kwame Asareの在籍した「KUMASI TRIO」
早くから航海術に長けていたリベリアの原住民クル族は自国の音楽に、船乗りが西洋から持ち帰ったフォーク・ソングや賛美歌、カリブ移民のメロディやリズムなどの様々な音楽をミックスし、パームワイン(椰子酒)などを出す酒場で演奏していたことでこの名前が付いたそうです。

その後レコードの普及と共にパームワイン・ミュージックは西アフリカの各地に広がっていきます。
特にガーナでは1920年代より活動した音楽家で、クル人からパームワイン・スタイルのギター奏法(人差し指と親指を使った2フィンガー・ピッキング)を直接教った人物でもあるKwame Asareの活躍により人気を博するようになっていった様です。


E.T. Mensah
どうやらその変遷には諸説あるようですが、戦後パームワイン・ミュージックがガーナ独自の変化を辿り上流階級のダンス音楽として確立されていったもの、それがハイライフです。
1950年代にはハイライフは全盛期を迎え、1957年にガーナが独立を果たしたこともあり国家独立のシンボル的な音楽ジャンルとなっていったようです。
この頃に活躍した「モダン・ハイライフの父」E.T. Mensah率いるメンサー楽団は当時のガーナ国家を代表するバンドとして西アフリカの音楽をリードしました。


E. T. Mensah - Medzi Medzi

60年代以降はエレキ・ギターを取り入れたギター・バンド・スタイルのハイライフなども登場し人気を博していきますが、70年代に入るとガーナ経済が極度の不況に陥りビッグバンド・スタイルのハイライフ楽団は次々と廃業に追い込まれます。
更に、ガーナで79年に始まった軍事クーデターにより国内のレコード産業はほとんど壊滅状態に追い込まれてしまいます。その結果、伝統的なスタイルのハイライフ・ミュージシャンの多くは活動拠点をナイジェリア、イギリス、ドイツなどの海外へ移していきました。





かといってハイライフの文化がガーナから完全に消えて無くなってしまった訳ではないようです。

1992年にはガーナはそれまで続いた軍政から民政へと移管し、いくつかFMラジオ局なども開局していきます。
ガーナの若者達はそれまであった伝統的なハイライフに、FMラジオなどで人気になっていた欧米のHIPHOPやDANCE HALL REGGAEなどの要素を取り入れ全く新しいスタイルのダンス・ミュージック「HIPLIFE」を作り出していったのでした。


ハイライフ + HIPHOP = HIPLIFE…少し安直ですね~(笑)。


HIPLIFEはmp3のダウンロードなどが流通の主流のようですが、今回紹介するのはドイツのOuthere recordsから発売されたガーナの「HIPLIFE」を代表する重要な音楽家たちのヒット・ナンバーを収録したコンピレーション・アルバムです。

トラック・リストは

『BLACK STARS Ghanas Hiplife Generation』
1.Modern Ghanaians feat. Kontihene, Kwabena Kwabena & Kwaku-T - King Ayisoba
2.Do Something feat. Amingo - Batman Samini
3.Ahomka Wo Mu - VIP
4.My Body (Remix) feat. Tripple M - Tony Harmony
5.Oldman Boogey (Remix) feat. Tinny - FBS
6.Abelle feat. Barosky & Kofi Nti - Ofori Amponsah
7.Yani feat. Malaika - Afroganic
8.Kangaroo feat. Batman Samini & D'banj - Tic Tac
9.Illusions - Sheriff Ghale
10.Lomna va - Terry Bonchaka
11.Aletse Ogboo - Tinny
12.Toto Mechnic (Remix) feat. Kwaku-T - Pidgen Allstars
13Edua Neb U feat. Reggie Rockstone - Nkasei
14.Now Til da End - QDL



Reggie Rockstone
13曲目の「Edua Neb U」でフューチャリングされているReggie RockstoneはこのHIPLIFEというジャンルのオリジネーターで、ガーナの現地語の一つであるトゥウィ語でラップをした初めての人物です。
彼が広めた音楽がHIPLIFEと呼ばれるようになったことから今では「ヒップライフのゴッドファーザー」と呼ばれるようになっているそうです。


(↓CDにはないイントロが入ってタイトルが違いますが「Edua Neb U」のPV)


1曲目の「Modern Ghanaians」も名曲なんですよ。
コルゴという2弦ギターを弾きながら、一人で様々な音色の歌声を聴かせてくれるKing Ayisobaは近年人気を集めているアーティストだそうです。
ここで収録されている楽曲はDANCE HALL REGGAEっぽい感じですがライブでは結構アコースティックな生演奏も多いみたいですね。


8曲目「Kangaroo」。
この曲を歌うTic TacはHIPLIFEのシーンの中で最も大きな成功を収めた人物で、同じく人気の高いBatman SaminiとD'banjをフューチャリングしたこの曲のPVはアフリカのMTVチャートで1位を獲得したそうです。これはかっこいい…。


そんなBatman Saminiの2曲目「Do Something」。

などなど名曲ぞろいです。




HIPLIFEは一聴すると欧米のHIPHOPやDANCE HALL REGGAEの様にも聴こえますが、楽曲の端々にアコースティックな楽器の音色が散りばめられていたり、メロディーの中にアフリカ独特の音階が使われていたり、やっぱりガーナならではの音楽なんですね。


ジャマイカで発生したREGGAEは元々、ガーナも含むアフリカ諸国から奴隷として連れてこられた人々のアフリカ回帰的な考えから発展していった音楽です。HIPHOPの発展にも近しいものがありますし、HIPLIFEでのこの両者の親和性の高さには実はそういった背景もあるのでは?と妄想してしまいます。



因みにタイトルになっている「BLACK STARS」とは黒人のスターという意味の他、ガーナ国旗の黒い星も表しているそうです。







HIPLIFE GENERATION- MySpace

2012年4月7日土曜日

Neung Phak『Neung Phak』

前回紹介したAlan Bishopと彼のレーベル「SUBLIME FREQUENCIES」関連のお話を連続で。
(前回のAlvarius B.『BAROQUE PRIMITIVA』紹介記事はこちら)

Hisham Mayet
SUBLIME FREQUENCIESはAlan Bishopやその仲間達が、長年コレクションしてきた辺境地域音楽のレコードやテープなどのヴィンテージ音源を自分自身で保持するだけではなく仲間内で共有できないかと2002年にサンフランシスコで始まったレーベルです。

なのでもちろんSUBLIME FREQUENCIESクルーにはAlan Bishopの他にも、映像作家であるHisham Mayetや、前回ちらっと紹介したMark Gergisなど相当凄腕の音楽ディガーが多数揃っています。

(Hisham MayetのMixSublime Frequencies mix Feat. Hisham Mayet)





Mark Gergis
今回紹介する「Neung Phak」はそんなSUBLIME FREQUENCIESクルーの中の一人、Mark Gergisが2001年に結成したバンドです。

このMark Gergis、イラク移民系のアメリカ人なのですが何故かSUBLIME FREQUENCIESの中ではとりわけ東南アジア系の作品リリースに大きく関与しておりタイ版ラジオ・シリーズ『Radio Thailand: Transmissions from the Tropical Kingdom 』の片面や、ヴェトナムのロックをリイシューした『Saigon Rock & Soul: Vietnamese Classic Tracks 1968-1974』、タイのモーラムを集めた『Molam: Thai Country Groove From Isan』…などの仕事で知られる人物です。


Omar Souleyman
しかし、やはり彼の功績として最も有名なものは何といっても、シリアのパーティー・ミュージックDabkeのスーパー・スターOmar Souleymanを世界的に(語弊を恐れずに言えば)「発見」「紹介」したことでしょう。

Mark Gergisがシリア旅行で見つけたテープをもとに本人を探し出し、何度もシリアを訪ねて交渉を重ね、500本以上ものテープから厳選したという
Omar SouleymanのHIGHWAY TO HASSAKE (FOLK AND POP SOUNDS OF SYRIA)
』は世界中のワールド・ミュージック・ファンを驚かせました。
(Omar Souleymanは近年のヨーロッパツアーやBjörkとの共演でも話題に。 )



Björk - Crystalline (Omar Souleyman Version)




そんなMark Gergis、自身でも「Porest」という名義で20年近く実験的な音楽活動をしています。

1993に結成され、彼も参加したバンドMono Pause」も当初はそういった感じの実験的な音楽活動を行うグループだったようです。



今回紹介する「Neung Phak」は、どうやらそのMono Pauseがインチキに東南アジア系ポップスを演出するというコンセプトのもと変名したバンドの様です。
バンド名にカッコ付でMono Pauseの名前が書いてあるのでこの二つにあんまり明確な違いがあるわけじゃないみたいですね。

(因みに「Neung Phak」とは蒸し鶏とココナッツミルクとバナナの葉で作るラオス/イサーン料理のこと。)


東南アジアのポップスにはもともとその国にあった独自の音楽文化に西洋的なエッセンスを取り入れたものがとても多いのですが、
この「Neung PhakMark Gergisが東南アジアで発掘したそういったポップスを逆に西洋的な観点からカバーしていくというバンドです。

バンドでキュートな声を聴かせてくれるDiana Hayes嬢は、kid606 ことMiguel Pedroが主宰するテクノ・レーベル「Tigerbeat6」からLe Tigle直系サウンドのミニ・アルバムを出していたバンド「Dynasty」のメンバーとしても活動していました。
(Dynastyには「Numbers」のIndra Dunisも在籍していたみたいです。)



Diana Hayesはタイ系ハーフのアメリカ人ですが生まれはアメリカのペンシルベニアなので特にネイティブなタイ語スピーカーという訳ではないようです。
恐らくアルバム内で歌われるタイ語も音で聴いてそのまま歌っただけのインチキ・タイ語だと思われます。


Neung PhakにはDiana Hayesの他にも、Mark Gergisの兄弟であるErik Gergisや、エクスペリメンタルコラージュ・バンドNegativlandでも活動しているPeter Conheimなどもメンバーの一員として在籍しています。


(その他にもMark GergisはMono Pause周辺のメンバーと矛盾だらけの白人至上主義ロック/セミナー・バンド(笑)「THE WHITE RING」も結成。
ライブはやってたみたいですけど音源とかあるんですかね?)






それではSUBLIME FREQUENCIES主催Alan Bishopのもうひとつのレーベル「Abduction」から2003年に出た1stアルバム『Neung Phak』です。

トラック・リストは

Neung Phak『Neung Phak』
1. Hired By The King
2. Tui Tui Tui
3. Inside The Program
4. Low Tide
5. Identity Event
6. Cheer
7. Diew Tob Diew Tob
8. Cam Huong Theme
9. Ko Muay De Ka
10. Chu Guana Tong Bei Bo
11. Khmer 27
12. Fired By The King
13. Look Thong Joi
14. Morlam Pee Bah
15. Low Tide (Original)

(↓こちらで全曲聴くことができます。)

まずは大袈裟なホーン使いとDiana Hayes嬢の歌が可愛らしい2曲目「Tui Tui Tui」。
これはタイ版のラジオ・シリーズ『Radio Thailand: Transmissions from the Tropical Kingdom 』でも一瞬流れる、タイのYim Yamsupan「ตุ๊ยตุ๊ยตุ่ย (Tui Tui Tui)」という曲のカバーみたいです。
(↓このライブ映像Diana HayesがCrassのTシャツ着てます!)
このバンドはとにかくライブがいいんですよね。
9曲目の「Ko Muay De Ka」、CD版だとサビ部分でラテンっぽいアレンジが入ってそれもまた良いんですがライブではとにかくゴリゴリ。
この曲はタイの華僑系アイドル「China Dolls/中國娃娃」の「หมวยนี่คะ (Muay Nee Kah)」という曲のカバーだということをタイ帰りの弟が教えてくれました。
この原曲も実はカッコイイ…CD探してます(笑)。
10曲目の「Chu Guana Tong Bei Bo」も台湾のソウル歌手「蘇芮(スー・ルイ)」の代表曲「酒干倘卖无」のカバーですね。
他にもカンボジア歌謡をカバーした4曲目の「Low Tide」や、タイのモーラムをアヴァンギャルドにカバーした14曲目「Morlam Pee Bah」など聴きどころ満載です。






Neung Phakはアメリカ発のカンボジンアン・ロック・バンドDengue Feverや、Sunn O))) やSUN CITY GIRLS辺りの人脈で構成されるシアトルのバンドMaster Musicians of Bukkake辺りと共演を重ねていますが、
日本のOOIOODMBQツアーでアメリカを回った際にも共演していたみたいです。

ただ、彼らはそういったオルタナティブな活動をしているバンドだけではなく、例えばアメリカで活動し伝統的なタイのモーラムを演奏している演奏家との共演も果たしています。
(↓Neung Phakと共演したバークレー・コミュニティーセンターのモーラム演奏家。)
また、Brently Pusser等をゲストに迎えてモーラムのみに力を入れたNeung Phakのバンド内プロジェクト「Pusser's Pihn」というのもあったみたいですが、これは情報が少なすぎて謎のままです…。





その後バンドは2005年に嘘か本当かわからないですが北朝鮮録音の7inchシングル『FUCKING USA』(北朝鮮の反米キャンペーン・ソングのカバー曲)、
2012年メンバーを多少入れ替えて制作されLPとダウンロード限定の2ndアルバム『2』を同じくAbductionから発表しています。



(↓この曲のカバーしてます。)
(↓『FUCKING USA』を含んだ2ndアルバム『2』もこちらで全部聴けます。)





彼らのことを一言で表すならば
高度な技術を使った悪ふざけ
ですかね。
アルバムでもシークレット・ゲスト「HITMAN KONG THEP名義で参加していたAlan Bishopを迎えたこの映像もなんだかカツラかぶってたりコント仕立てでやたらと楽しそうですね~。