2012年4月7日土曜日

Neung Phak『Neung Phak』

前回紹介したAlan Bishopと彼のレーベル「SUBLIME FREQUENCIES」関連のお話を連続で。
(前回のAlvarius B.『BAROQUE PRIMITIVA』紹介記事はこちら)

Hisham Mayet
SUBLIME FREQUENCIESはAlan Bishopやその仲間達が、長年コレクションしてきた辺境地域音楽のレコードやテープなどのヴィンテージ音源を自分自身で保持するだけではなく仲間内で共有できないかと2002年にサンフランシスコで始まったレーベルです。

なのでもちろんSUBLIME FREQUENCIESクルーにはAlan Bishopの他にも、映像作家であるHisham Mayetや、前回ちらっと紹介したMark Gergisなど相当凄腕の音楽ディガーが多数揃っています。

(Hisham MayetのMixSublime Frequencies mix Feat. Hisham Mayet)





Mark Gergis
今回紹介する「Neung Phak」はそんなSUBLIME FREQUENCIESクルーの中の一人、Mark Gergisが2001年に結成したバンドです。

このMark Gergis、イラク移民系のアメリカ人なのですが何故かSUBLIME FREQUENCIESの中ではとりわけ東南アジア系の作品リリースに大きく関与しておりタイ版ラジオ・シリーズ『Radio Thailand: Transmissions from the Tropical Kingdom 』の片面や、ヴェトナムのロックをリイシューした『Saigon Rock & Soul: Vietnamese Classic Tracks 1968-1974』、タイのモーラムを集めた『Molam: Thai Country Groove From Isan』…などの仕事で知られる人物です。


Omar Souleyman
しかし、やはり彼の功績として最も有名なものは何といっても、シリアのパーティー・ミュージックDabkeのスーパー・スターOmar Souleymanを世界的に(語弊を恐れずに言えば)「発見」「紹介」したことでしょう。

Mark Gergisがシリア旅行で見つけたテープをもとに本人を探し出し、何度もシリアを訪ねて交渉を重ね、500本以上ものテープから厳選したという
Omar SouleymanのHIGHWAY TO HASSAKE (FOLK AND POP SOUNDS OF SYRIA)
』は世界中のワールド・ミュージック・ファンを驚かせました。
(Omar Souleymanは近年のヨーロッパツアーやBjörkとの共演でも話題に。 )



Björk - Crystalline (Omar Souleyman Version)




そんなMark Gergis、自身でも「Porest」という名義で20年近く実験的な音楽活動をしています。

1993に結成され、彼も参加したバンドMono Pause」も当初はそういった感じの実験的な音楽活動を行うグループだったようです。



今回紹介する「Neung Phak」は、どうやらそのMono Pauseがインチキに東南アジア系ポップスを演出するというコンセプトのもと変名したバンドの様です。
バンド名にカッコ付でMono Pauseの名前が書いてあるのでこの二つにあんまり明確な違いがあるわけじゃないみたいですね。

(因みに「Neung Phak」とは蒸し鶏とココナッツミルクとバナナの葉で作るラオス/イサーン料理のこと。)


東南アジアのポップスにはもともとその国にあった独自の音楽文化に西洋的なエッセンスを取り入れたものがとても多いのですが、
この「Neung PhakMark Gergisが東南アジアで発掘したそういったポップスを逆に西洋的な観点からカバーしていくというバンドです。

バンドでキュートな声を聴かせてくれるDiana Hayes嬢は、kid606 ことMiguel Pedroが主宰するテクノ・レーベル「Tigerbeat6」からLe Tigle直系サウンドのミニ・アルバムを出していたバンド「Dynasty」のメンバーとしても活動していました。
(Dynastyには「Numbers」のIndra Dunisも在籍していたみたいです。)



Diana Hayesはタイ系ハーフのアメリカ人ですが生まれはアメリカのペンシルベニアなので特にネイティブなタイ語スピーカーという訳ではないようです。
恐らくアルバム内で歌われるタイ語も音で聴いてそのまま歌っただけのインチキ・タイ語だと思われます。


Neung PhakにはDiana Hayesの他にも、Mark Gergisの兄弟であるErik Gergisや、エクスペリメンタルコラージュ・バンドNegativlandでも活動しているPeter Conheimなどもメンバーの一員として在籍しています。


(その他にもMark GergisはMono Pause周辺のメンバーと矛盾だらけの白人至上主義ロック/セミナー・バンド(笑)「THE WHITE RING」も結成。
ライブはやってたみたいですけど音源とかあるんですかね?)






それではSUBLIME FREQUENCIES主催Alan Bishopのもうひとつのレーベル「Abduction」から2003年に出た1stアルバム『Neung Phak』です。

トラック・リストは

Neung Phak『Neung Phak』
1. Hired By The King
2. Tui Tui Tui
3. Inside The Program
4. Low Tide
5. Identity Event
6. Cheer
7. Diew Tob Diew Tob
8. Cam Huong Theme
9. Ko Muay De Ka
10. Chu Guana Tong Bei Bo
11. Khmer 27
12. Fired By The King
13. Look Thong Joi
14. Morlam Pee Bah
15. Low Tide (Original)

(↓こちらで全曲聴くことができます。)

まずは大袈裟なホーン使いとDiana Hayes嬢の歌が可愛らしい2曲目「Tui Tui Tui」。
これはタイ版のラジオ・シリーズ『Radio Thailand: Transmissions from the Tropical Kingdom 』でも一瞬流れる、タイのYim Yamsupan「ตุ๊ยตุ๊ยตุ่ย (Tui Tui Tui)」という曲のカバーみたいです。
(↓このライブ映像Diana HayesがCrassのTシャツ着てます!)
このバンドはとにかくライブがいいんですよね。
9曲目の「Ko Muay De Ka」、CD版だとサビ部分でラテンっぽいアレンジが入ってそれもまた良いんですがライブではとにかくゴリゴリ。
この曲はタイの華僑系アイドル「China Dolls/中國娃娃」の「หมวยนี่คะ (Muay Nee Kah)」という曲のカバーだということをタイ帰りの弟が教えてくれました。
この原曲も実はカッコイイ…CD探してます(笑)。
10曲目の「Chu Guana Tong Bei Bo」も台湾のソウル歌手「蘇芮(スー・ルイ)」の代表曲「酒干倘卖无」のカバーですね。
他にもカンボジア歌謡をカバーした4曲目の「Low Tide」や、タイのモーラムをアヴァンギャルドにカバーした14曲目「Morlam Pee Bah」など聴きどころ満載です。






Neung Phakはアメリカ発のカンボジンアン・ロック・バンドDengue Feverや、Sunn O))) やSUN CITY GIRLS辺りの人脈で構成されるシアトルのバンドMaster Musicians of Bukkake辺りと共演を重ねていますが、
日本のOOIOODMBQツアーでアメリカを回った際にも共演していたみたいです。

ただ、彼らはそういったオルタナティブな活動をしているバンドだけではなく、例えばアメリカで活動し伝統的なタイのモーラムを演奏している演奏家との共演も果たしています。
(↓Neung Phakと共演したバークレー・コミュニティーセンターのモーラム演奏家。)
また、Brently Pusser等をゲストに迎えてモーラムのみに力を入れたNeung Phakのバンド内プロジェクト「Pusser's Pihn」というのもあったみたいですが、これは情報が少なすぎて謎のままです…。





その後バンドは2005年に嘘か本当かわからないですが北朝鮮録音の7inchシングル『FUCKING USA』(北朝鮮の反米キャンペーン・ソングのカバー曲)、
2012年メンバーを多少入れ替えて制作されLPとダウンロード限定の2ndアルバム『2』を同じくAbductionから発表しています。



(↓この曲のカバーしてます。)
(↓『FUCKING USA』を含んだ2ndアルバム『2』もこちらで全部聴けます。)





彼らのことを一言で表すならば
高度な技術を使った悪ふざけ
ですかね。
アルバムでもシークレット・ゲスト「HITMAN KONG THEP名義で参加していたAlan Bishopを迎えたこの映像もなんだかカツラかぶってたりコント仕立てでやたらと楽しそうですね~。














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